激愛





学業に障りがあるとの理由で、平日の情事は禁止だった。
その代わり、週末、特に金曜日の夜に繰り広げられる情事は激しい。
一週間分の情愛を注ぎ込まれ、それと同じ位の情愛を奪われる。

初めは、毎回、気を失っていたが、いつしかそれにも慣れ、
気を失うことはなくなっていたが、この日はいつもに増して激しかった。

耐え切れずに許しを請った唇は逃げても逃げても塞がれた。
ほたるに休みなく愛撫されている辰伶自身からは甘い蜜が絶えず零れ落ち続けた。
白い喉を晒しながら仰け反っていく身体は中から攻められ、
何度もほたるの欲を受け止めた。

部屋の響く悲鳴とも歓喜の声とも取れる声を一際高くあげた辰伶はそのまま気を失った。

力の抜けた辰伶の身体から己を抜いたほたるは
そっと汗で濡れた髪をかき上げ辰伶の額に唇を寄せた。









                「オレのものだよ……辰、伶……」

















切れ長の睫毛を揺らし、ゆっくりと辰伶の瞼が開かれた。
部屋の中に差し込んでいる光りが眩しいのか、開かれた瞳がまた閉じられた。

急に光りが陰り、瞼の上に温かい何かを感じて慌てて辰伶が瞳を開いた。
途端に広がる端整な顔立ちに、息を飲み、無意識に身体に力を込めた。

「っ〜〜〜」
「おはよ、辰伶……」

昨夜、耳元で囁かれ続けた声とは少し違う声に、ホッと辰伶は身体の力を抜いた。

少し低めに抑えた声で名前を呼ばれただけで、
身体の芯が疼くようになる位、ほたると身体を重ねていた。

だからと言って、昼間からほたると情事に及ぶことなど辰伶には出来なかった。
もっとも、身体は素直で求められれば、抵抗らしい抵抗など出来なかったが。



両腕に力を込めて身体をベットの上に起こそうとして、辰伶が顔を顰めた。
身体の節々が悲鳴を上げていた。
それでもゆっくりと身体を起こした辰伶を支えるように、
ほたるが辰伶の背後に腰を下ろした。
そんなほたるに身体を預け、ベットの上に身体を起こした辰伶は
まだ眠りのかほたるに凭れかかったまま目を閉じた。


カーテンの隙間から入り込んでくる穏やかな光りのような温かいものが二人を包んでいる。
眼を細め、自分に凭れかかっている辰伶の耳元にほたるは顔を寄せた。

頬に当たる艶やかな銀糸の髪の感触を感じながら口を開いた。

「おはよ、辰伶……玉子は何がいい?」
「…………スクランブルエッグ……」
「ベーコンとソーセジは?」
「………両方……」
「野菜は?」
「……欲しい……」
「他に何が欲しい?」
「…カフェオレ……甘いのがいい……」
「分かった。用意するから」
「ん……」

ほたるは辰伶の肩を抱き、額にキスを一つ落とすと部屋を出て行った。

休みの日はどうしても昼食兼用の遅い朝食になる。
規則正しい生活を送る辰伶が起きれないからだ。

前夜の情事の余韻が残る身体は何時にも増して睡眠を求めていた。
目を覚ました辰伶に食べたいものを聞いて
用意している間に辰伶が起きてくるのが いつの間にか二人のルールになっていた。


キッチンから何かがフライパンの上で踊っている音が聞こえていた。
部屋まで美味しそうな匂いが漂ってきた。
それを合図に辰伶が床に落ちているパジャマを拾い上げ、部屋を後にした。
昨夜の名残りを熱めのシャワーで流し、
服へ着替えた辰伶が座ると その前の真っ白な大きめの皿が置かれた。

「ハイ。スクランブルエッグにベーコンとソーセージ。温野菜もつけたし」

向かい側にも同じ皿を置いたほたるが、キッチンへと消えた。
辰伶がそのほたるを目で追っていると、
両手に色違いのマグカップを持ったほたるが戻ってきた。

「そして、ミルクたっぷりのカフェオレ」
「あ…ありが、と、う/////」

辰伶が望んだ通りのモノが並んだ。
見た目にも美味しそうな料理が湯気をたてている。
ほたるの料理の腕は確かだ。
それを知っている辰伶は嬉しそうな表情を見せた。

「ホラ、早く食べよ?」
「あぁ……」



穏やかな時間は早く過ぎて行く。
ブランチを食べ終わると、辰伶は洗濯と掃除をし、
いつものように一週間分の買出しに出かけた。
土曜日に買出しをして、日曜日は予定を入れないのが二人の暗黙のルールだった。



夕食も終り、各自、好きなことをして時間を過ごしていた。
春の特番ばかり続いていたので、特にテレビもつけずにいた。
別に音がなくても、互いの存在を感じていればそれで十分だった。


ソファに座り本を読んでいた辰伶が顔をあげると、
濡れた髪をタオルで拭きながら ほたるが近づいてくるのが見えた。
濡れた前髪を鬱陶しそうにかき上げている仕草にドキリとして、 慌てて顔を逸らした。

その辰伶の隣に当然のように腰を下ろしたほたるが髪を拭く度に
細いが鍛えてある腕が辰伶の腕に当り、辰伶の体温が確実に上がっていった。

「ふ、風呂に入ってくる」
「何時もならもう少し遅いのに、珍しいね。本、読み終わったの?」
「え?あぁ、読み終わったから……」

立ち上がり、その場を後にしようとした辰伶をほたるが呼びとめた。

「ちょっと、辰伶」
「なっ…なんだ?」
「コレ、洗濯機に入れといて?」


ほたるの髪を拭いていたタオルを渡された。
触れ合った指先に辰伶が思わず頬を染めた。

昨夜、身体の上を這ったほたるの繊細な指。
何度も指先が敏感な箇所を掠め、耐え切れずに強請った。
それを思い出し、慌てて辰伶はほたるに背を向けた。



廊下からリビングを見ると、ソファに座っているほたるの後姿がハッキリと見えた。
夜でも耀きを失わない少しクセのある金糸の髪。

辰伶の気配を感じ、ほたるが振り向いた。
辰伶だけに見せる穏やかな笑みを浮かべている。
無表情と言われているほたるだったが、そうでない事を辰伶は知っていた。
自分だけに見せる表情、自分だけが知っている表情。

そう、自分だけに許された特権。    

……辰伶の顔に笑みが浮かんだ。



ほたるの肩口に顔を乗せ、甘えるような仕草を辰伶は見せていた。
軽く顔を上げ、僅かに首を傾げながらじっとほたるを見つめている。
薄っすらと開かれた唇はほたるに口付けられるのを待っていた。

自分からキスを強請る辰伶の姿にほたるは内心、驚いていた。
滅多にない辰伶からのおねだり。
いつも求めるのは自分からだった。
それも、週末しか許されない。

なのに……。

ふと、ほたるの脳裏に浮かんだことがあったが、あえてソレを口にしなかった。
その代わり、身体の芯に響くように抑えた声で辰伶の名前を呼んだ。

「ねぇ、辰伶……誘ったのはお前の方だからね……」

甘美な響きを持つ声が辰伶の鼓膜に響いてきた。
答える代わりに、辰伶はほたるの首に腕を廻し、静かに目を閉じた。

灯りの消した中で浮かび上がる二つの裸体。
聞こえるのは辰伶の抑えようとしても抑えられない甘い声だった。
広げた辰伶の両腿の間からほたるの金糸の髪が見えている。

「……気持ちいい?」
「んあ…っ、くッ………ぅ……ん……ッ」
「……ちゃんと言ってくんないと……」

ほたるが愛撫していた手を休め、顔をあげた。
突然中断された行為に、目の縁を艶色に染めた辰伶が恨めしそうな視線をほたるへ向けた。

「……どうして欲しいの?」

ほたるの舌が唇に付いた蜜を舐め取るのが見え、
恥ずかしさのあまりに辰伶が視線を逸らした。

「………ほた……る……」

辰伶は掠れた声でほたるの名前を呼びながら、両手を伸ばして金糸の髪に絡めた。
その行動にほたるは満足そうに笑うと、手の中で震えていた辰伶自身を銜えた。

腰から一気に甘美な痺れが走った。
その瞬間、辰伶の理性はもう残ってはいなかった。
素直に腰を揺らしほたるを求め始めた辰伶に、ほたるもまた理性を失った。


ほたるが辰伶へ、辰伶がほたるへと溶けていくように互いを貪るように求め合い、
満たされたまま眠りについたのはもう日付が替わる頃だった。





昨日と同じ朝が繰り返された。
ベットの中、ほたるは目を覚ました辰伶の銀糸の髪を指で梳いていた。
気持ちいいのか辰伶は一度は開いた瞼を再び閉じ、ほたるのされるままにしていた。

「おはよ、辰伶。今日は何が食べたい?」
「……お前の作るものなら……何でも……いい」

目を閉じたまま答えた辰伶にほたるは笑み見せた。

「……そっ。先にシャワーを浴びてから作るから、お前はもう少し寝ててもいいよ」

ほたるは手に取った艶やかな手触りのする銀糸の髪にそっと唇を寄せるとベットを下りた。

隣に感じていた温もりが去った気配に、辰伶は目を開いた。
ほたるの後姿が閉まりかけているドアの隙間から見え、ドアが閉まった。

ほたるの言葉通り、ベットの中でまどろんでいた辰伶が起きる頃には用意が整っていた。
昨日よりも遅い時間、もうお昼になっていた。

リモコンのスイッチを入れ、ニュースをかけた辰伶の手から美味しそうに焼けたトーストが落ちた。

「ん?どうしたの、辰伶?」
「ほ、ほ、ほた、る………」
「ちょっとどうしたの、辰伶?」

テレビを見つめたまま固まっている辰伶に、ほたるが腰を浮かせた。

「げ、げ、げ、げ、げ」

同じ言葉を繰り返す辰伶にいつもの冷静さはなかった。

「……今日は……月曜……だ……ッ!!」

立ち上がった辰伶の言葉に、ほたるが当たり前だと言わんばかりに答えた。

「そうだけど……」

目を大きく見開いた辰伶がほたるを見つめた。

「……貴様……知ってたのかッ?!」
「うん、だって昨日は日曜だから、今日は月曜でしょ?」
「なっ!!!!!!!!!!」

辰伶は大きな勘違いを犯していた。
目を覚ましたのは土曜の昼前ではなく、日曜の昼前だったことに。

いつにも増して激しいほたるの愛撫に翻弄され、
我を忘れた辰伶はまる一日眠っていたのだ。
勘違いとテレビを一度もつけなかったという偶然が重なって、今の今までソレに気が付かなかった。

ほたるは何度か目を覚ましたが、辰伶が自分の腕の中で気持ち良さそうに眠っている姿を見て、
自分も目を閉じてまた眠りに落ちていたので、辰伶が丸一日眠り続けたのを知っていたが、
昨夜、辰伶が自分を誘うような仕草を見せるまで忘れていた。

日曜の夜に辰伶から誘うことなど今までなかった。
辰伶が曜日を勘違いしている事に気が付いたが、
辰伶から誘われて断ることなどほたるの頭にはない。
求められるだけ辰伶に与え、それと同じものを辰伶に求めたのは当然の結果だった。

「が、学校!!!」
「休んだら?」
「馬鹿者ッ!!学業は学生の本分だッ!!
今から行けば……午後の授業には間に合うな……  ホラ、さっさと食べて行くぞッ!!!!!」
「えー、面倒だから休もうよ」
「ダメだ!」

半ば辰伶に引きずれるように校門をくぐったほたるの姿をアキラが見ていた。

「おや、あの二人は重役出勤ですか?」
「ん?おー、ほたると辰伶のヤロー、こんな時間に仲良く登校してきたぜ?」
「ほたるさんは兎も角、辰伶さんがこんな時間に登校なんて珍しいわね」

口々に好き勝手なことを言いながら、二人が教室に入ってくるのを待ち構えていた。
穏やかな昼下がり。暇つぶしにはあの二人は格好の獲物だった。

「ねー、辰伶。帰ろうよ」
「此処まで来て何を言うッ!ホラ、着いたぞ?」

教室のドアに手を掛けた辰伶が横に引こうとした瞬間、

「で、遅れた理由は何て言うの?」
「うッ…………」

辰伶の手が止まった。

「オレは別に本当の事、言ってもいいし」
「なッ/////////」
「昨夜の辰伶は、積極的で……っ」

ドアから手を離し、辰伶はほたるの頭に手を下ろしていた。
掌に感じるのはほたるの金糸の髪の感触。
昨夜はその髪を指に絡め、ほたるを求めた……。
そのことを思い出した辰伶の頬が朱に染まり、身体が熱くなっていった。

そんな辰伶を横目に、頭を押さえたまま、ほたるがガラリとドアを開けた。

「あッ、ほたる。待っ……」

ドアの開く音に我に返った辰伶がほたるを止めようとしてバランスを崩した。
タイミングよく開いたドアから教室内へと
よろけるように落ちて行きそうになった辰伶を後ろからほたるが支えた。

ほたるの腕が辰伶の腹部に廻され、身体を密着させている二人をクラスメート達は見ていた。

「ちょっと大丈夫、辰伶?」
「えッ?!あぁ、大丈夫だ//////」

顔を朱に染めながらズレた眼鏡を軽く押さえた辰伶の姿にいつもの優等生の雰囲気はなく
未熟な性が持つ初々しい色気を漂わせていた。

ザワリと教室内の空気が変わった。
そして、それから辰伶を見る男達の目も変わった。

あれ以来、何気に用事を作ってクラスメートの男子が辰伶の側に寄ってくるようになっていた。
さり気なく辰伶の髪に手を伸ばしてくる輩もいる。
狂などは辰伶の腰に腕を回しながら、ニヤリとほたるの方を見てくる。
ほたる以外の人間に腰に手を廻されるのに慣れていない辰伶がその都度、
頬を軽く染めながら狂の腕を外すのをほたるは苦々しく見ていた。

二人の関係は秘密だった。

ほたるは別に知られても平気だったが、辰伶がそれを許さなかった。
だから二人の関係を知らない輩の、辰伶へ対するアピールは日増しにエスカレートしていった。
そしてほたるの我慢の限界が来た。

午前の授業が終わり、教室内は賑やかな雰囲気に包まれた。
教科書を仕舞い終えた辰伶が立ち上がった時、背後から辰伶の腰に狂が腕を廻してきた。
触れられた瞬間、辰伶が艶のある声をあげた。

「あッ/////////」

クラスメート達が振り向いた。

「ん、辰伶?腰……どうしたんだ?」
「なッ//////////」

ニヤニヤと笑っている狂の言葉に思い当たることがある辰伶が頬を染め、狂から顔を逸らした。

「ちょっと、狂。オレの辰伶に触らないでくんない?大丈夫、辰伶?」

ほたるが椅子から立ち上がり、二人に近づいてきた。
そのほたるを辰伶が潤んだ瞳で無言のまま睨みつけた。

『き、貴様が一番悪いんだからなッ!!』

言葉に出来ない声で文句を言っていたが、
その姿にこの前と同じ初々しい色気が滲み出ていた。
固唾を飲んで見守る輩の方からゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
伸びてきたほたるの手が辰伶の横髪をクイクイと引っ張った。

「ん?謝る気になったのか、ほた……んん〜〜〜〜ッ」

ほたるの唇が辰伶の唇を塞いでいた。
横髪を引っ張った手を後頭部に廻し、空いている手は腰に廻し身体を密着させた。
目を大きく見開いた辰伶の両手がほたるを突き飛ばした。

「なっ、な、な、な、人前でするなと言っておろうがッ!!!」

辰伶の怒鳴り声が静まり返った教室内に響いた。
肩で息をし、顔を朱に染めている辰伶が潤んだ瞳でほたるを睨みつけている。

「あ〜ぁ、そんな大声出していいの?」
「ほたる……貴様ァ〜〜!話しを逸らすなッ!!」
「逸らしてないってば」
「逸らしてるではないかッ!人前でキ…キスなど……ん?人、前…?」

辰伶がゆっくりと辺りを見回すと、クラスメート達が慌てて視線を逸らした。

「あ………」

口を金魚のようにパクパクさせている辰伶の肩にほたるは腕を廻した。

「オレ達、こーゆー関係なの?分かった?」

黙って頷くしかなかった。

「ホラ、辰伶行こ?」

静まり返っている教室にほたるの声が響いた。
放心状態の辰伶は大人しくほたるに肩を抱かれたまま教室を出て行った。

その日、二人は午後の授業を揃って欠席した。  






2006.04.03  高村雪子様(月下美人)よりこのような素敵な誕生日プレゼントを頂きました!!
あの夜のメセ『ほた辰萌え話』がまさかこんな形で世に出ようとは・・・(笑)

もう、なんとお礼を申し上げて良いやら、言葉に尽くせません(感涙) 
ゆきわたり、どこまでも雪子様についていこうと決心致しました(笑)
これからも一緒にほた辰萌を語らせてやって下さいv

本当に本当にありがとうございました!!



                                          05.01  ゆきわたり はくと


「タイトルはつけて下さいね(笑)」とのことでしたが、
もう、ボキャブラ皆無の私としましては気の利いたタイトル一つ思いつかず;;;
苦し紛れに『激愛』とさせて頂きました;;(だって、毎回失神させられるほど愛されてるなんて・・・////
今回なんて日付が変わっても眠り続けてるし・・・////      激しすぎますよお二人さん^^;;;)